stardust innocent
「・・・・・っ!?」
初めて会った筈なのに初めてではない彼の姿に、僕は息を呑んだ。
「初めまして、かな。ロックオン・ストラトスだ。」
そう告げた彼は、僕の知っているあの人と同じ顔同じ声そして同じ名前で別人、だった。
「・・・・・初め、まして・・・アレルヤ・ハプティズム、です。」
動揺で戦慄く身体を叱咤して搾り出した声は・・・やはり震えていた。
アジトに戻る前に刹那からは聞いていた。新しいマイスターが入った、と。
それがあの人の替わりだということは僕にもわかった。あの人以外の新しいマイスターなど僕は認めたくはなかったけれど、でも再び計画を実行するには僕の我侭など押し通る筈もないこともまた、わかっていた。
「・・・・・どんな人なんだい?」
この4年の間にすっかりと成長した刹那は、以前ほど視線を下げなくても会話が交わせるようになっていて。そして捕らわれていた僕を先陣を切って助けに来てくれたことも併せて、身体的にだけでなく精神的にも随分成長したことが伺えた。
刹那は僕の問いに一瞬言葉を詰まらせた後、言い辛そうに口を開いて教えてくれた。
新しいマイスターはあの人の兄弟で、容姿も声もそっくりだ―――と。
刹那に教えて貰っていた通り、彼は良く似ていた。
似ている、なんてどころじゃない。あの人そのものじゃないか!
くるくると捲いた亜麻色の髪も、宝石のように綺麗な色の瞳も、白い肌も大きな手も声も何もかも全て―――!
していたつもりの覚悟は彼の姿を目にした瞬間、脆くも崩れさった。
新しくなったトレミーにも設けられていた展望室で、僕は一人座り込んで流れていく暗い海を眺める。
彼は、僕の好きだったあの人ではない。
頭では理解している。理解はしていても、不意に見せる仕草や何気ない言葉の端々が在りし日のあの人と重なって僕の心を揺さぶる。わかっている筈なのに、視線は彼を追ってあの人との共通点を見出そうとする。
そんなことをしても彼はあの人ではない、彼があの人になるわけではないというのに・・・・・!
窓の外に広がる暗い暗い海。
あの人はこの海の中に消えてしまった。
貴方は酷い人だ。
気持ちも、好きとか愛しているという言葉も何一つ僕に残してくれなかった。例え偽りでもいい、何かを残していてくれれば僕はこんなに苦しまなくて済んだかもしれないのに。
ただ僕に貴方を想う気持ちだけを植え付けて消えてしまった貴方。この気持ちは貴方がいなくても募るばかりで。
そこへ現れたもう一人の貴方。
彼は貴方ではないと頭ではわかっていても、心は貴方と彼を重ねて貴方から与えられなかったものを望もうとする。
貴方は本当に罪な人だ。
こんな苦しい想いだけ僕に残してくれた。
貴方を想いながら、貴方と同じ姿同じ声を持った彼を貴方と同じ名で呼んで、これからは共に戦っていかなければならないなんて。頭では理解していながら心は否定し求めてしまうこの葛藤。
ロックオン・・・ロックオン・・・・・ニール!
貴方は僕に何を望んでいたの?僕は一体どうしたらいいの?
「 」
あの人を飲み込んだくせに知らぬ顔で煌き続ける星たちに向かって、僕は手を伸ばし答えを求めた。
2008.10