きみがいてくれる、だけで



※アレルヤが廃人同然になってます。そういう表現が苦手な方、嫌悪を抱かれる方はお避け下さい。


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暖かい日差しが差し込む午後。冬から春へと移ろうこの季節はテラスで過ごすには心地好い季節。
その場所に身動ぎ一つせず、ただ虚空を見つめ続けるひとつの姿。
柔らかい日差しを浴びて、アレルヤは一日そこで過ごすのが最近の日課になっていた。


人為的に弄られ戦い続けたその結果なのか。それとも抱えきれないほど背負った罪に優しい心が耐え切れなかった所為か。
全てが終わり世界に平穏が訪れたその時、アレルヤの心は限界を迎え、そしてまるでもう何もかもを拒絶するかのように心を閉ざしてしまった。
自らは指一本動かそうとせず、また言葉も発さない。ただただその金と銀の双眸で虚空を、この世界じゃないどこかを見つめ続けるだけの日々。呼吸と鼓動のみを繰り返し、身体だけは生命活動を続ける。ただ“生きている”だけ。

『僕らは裁きを受けようとしている。』

何時の日だったかアレルヤが口にした言葉。確かに俺たちがしてきたことは決して許されることではない。罰も裁きも受けるべきが当然だと思っている。
だがこれが、こんな姿になってしまうのがアレルヤの犯した罪への咎だというのか。だというのならば、アレルヤよりも俺の方が遥かに罪が深いというのに。なのに、俺はただ右目の視力とほんの少しの四肢の不自由、という罰を負ったのみ。
何故、神は無情にもアレルヤにだけこんな仕打ちを科したのか。
戦うことを憂いながら、それでも世界を変えたくて優しい心を押し殺しながら戦っていたというのに。
神などとあの時以来信じてもいないのに、こんな時だけ恨み言を募らせたくなる。でなければ、一体何を誰を恨めば良いというのだ。


全てが終わり再びアレルヤに会った時には、もうアレルヤの心は全てを閉ざしていた。
幾ら声を掛けようとも、その少し骨ばった指に触れようとも微動だにもせず。色違いの双眸を見つめても、瞳に俺は映っていてもアレルヤの視界に俺の姿はなかった。

ただ、そこにいるだけ。

それでも。それでも俺は少しでもアレルヤの側に居たくて、少しでもアレルヤを近くに感じていたくて。
俺の故郷に一軒の小さな家を買って、そこでアレルヤと二人過ごすことにした。この場所を選んだのは、以前アレルヤが全てが終わったらこんな場所で過ごしてみたいと言ったのを覚えていたから。
今の状態のアレルヤにそんなことがわかるとは思わないけれど、それでもアレルヤの願いを少しでも叶えてやりたかったから。
己の我侭の所為で最後まで一緒に戦えなかったから。辛い時に側に居てやれなかったから。
こんな些細なことで罪滅ぼしになるわけでもないが、あの二人で過ごした暖かい時間にアレルヤが零した望みを少しでも叶えてやりたいのだ。
ただの自己満足だと言われようとも・・・・・。



「アレルヤ、紅茶淹れたぞ。おまえの好きなミルクティーだ。」
カップを2つ乗せたトレイを持って、アレルヤの居るテラスへと入る。もちろん返事はない。それでも俺は必ず声を掛ける。アレルヤは俺の声を好きだと言ってくれていたから。
虚空を見つめ続けるアレルヤの側にテーブルを寄せ、その上にトレイを置く。1つのカップの中からスプーンでミルクティーを掬い口元へと近付ければ、ほんの少し唇が開く。そこへスプーンの中身を流し込んでやれば、こくん、と喉が上下した。
「上手いか?」
もう一度ミルクティーを掬って口に運んでやればまた、こくん、と喉が上下する。そのアレルヤの姿に、俺は笑みが零れた。

アレルヤはもう何も感じない。
あのはにかんだような柔らかい笑顔も、少し高めの優しい声も今は目にすることも耳にすることもない。
全てを拒絶してしまうほど辛かったのか?苦しかったのか?
俺すらも、拒絶してしまうほどに・・・・・。
そう思うと胸がつきりと痛む。けれど、自らが壊れるほど苦しみながら戦う優しい心を持ったアレルヤだからこそ好きになったのだ。愛おしいと、ずっと側に居たいと・・・・・。


「アレルヤ。」
車椅子に座るアレルヤの足元に跪き、少し冷たい右手を取って両手で包む。少しでも俺の心が届くように、と。
アレルヤが側にいる、その温もりを感じられる、生きていてくれることに感謝を。
「・・・・・ニー・・・ル・・・」
時折、ほんの時々。何かを思い出すように紡ぎ出される言葉が、以前教えた俺の本当の名前であることがアレルヤの気持ちのようで嬉しさが込み上げ瞳が熱くなる。
「アレルヤ。」
もう一度愛おしい名前を呼んで、アレルヤの膝に頬を摺り寄せた。
今は想いも言葉も交わせないけれど。それでも俺は幸せだよ。

きみがいてくれる、だけで―――

この気持ちが、どうか伝わりますように・・・・・。





2009.01