ながれぼし



しんと静まりかえった冬の深夜。肌を刺すような冷たい空気はまるでその鋭さに比例するかのようにとても澄んでいて、夜空に浮かぶ星々の輝きを鮮明に浮かび上がらせている。
はぁ、と吐いた息は白い弧を描き、そして澄んだ空気の中に溶け込んでいった。


いいものが見られるから、と誘われ、普段ならとうに温かいベッドの中にいる時間に僕はこうして真冬の夜空の下でその時を待ち続ける。
時折吐く息の音以外なにひとつ聞こえない、とても静かな夜。
背に羽織っていた毛布がずり落ちかけているのに気が付いて、それを直しながらぼんやりと空を見上げた時、すうっと夜空を走るひとつの光明が目に映った。
「・・・・・あ、」
思わず声を漏らせば、それに釣られるかのように腕の中の存在ももぞりと身動ぎ、同じように空を見上げる気配。そして、ふ、と相好を崩した気配がした。
ついさっきまでは何もなかった夜空に、先程のたったひとつの光明が引き金になったのかひとつ、ふたつと次々に夜空の中を幾つもの光が走り、弧を描き、そして消えていく。
「・・・あ、ほらまた!あそこに、あ、こっちにも・・・うわぁ・・・・・」
その、なんともいえない絢爛で神秘的な光景に僕は思わず子供のようにはしゃいだ声を上げてしまった。光が描く軌跡に自然と視線が奪われる。不規則なリズムで現れるそれらから目が離せない。
一心に夜空を見上げる僕に対して彼は、な?言っただろ?とくすりと笑いながらそう言うけれど、だからといって僕のはしゃぎっぷりに呆れた風もなく、どこか自慢気でそして嬉しそうだった。
「うんっ・・・すごい、すごいよロックオン!とってもきれいだ」
僕は高揚する気持ちを抑えきれずに、思わず興奮気味にそう告げる。ロックオンが僕に見せたいと言ってくれていたのは、この広い夜空を幾つも流れる星たちのことだったんだ。
その気持ちへの嬉しさと、初めて目にする流れ行く星たちの美しさに僕は胸を躍らせ、夜空を見上げ続けた。

夜空を彩る流星たちをうっとりと眺めながら、ふと不思議に思う。
僕はどちらかというと宇宙で過ごす時間の方が長くて、その星々の本当の姿の方に馴染みがある。星といえば僕の脳裏に浮かぶのはあのごつごつとした無骨な姿の方で、それはお世辞にもきれいとは言えないと思う。
なのに、何万キロも離れたこの地上で見る星はあんなにきらきらと輝いて、流れて行くその姿は目が離せないほどきれいだなんて、なんて不思議。視点を変えてみれば、この世界には不思議なことがたくさん溢れているんだと思い知らされる。
そう思ったら、今こうして彼とふたりで夜空を翔る流れ星を見ていることがとても不思議で、でもそれが無性に嬉しくって、そしてどこか少しくすぐったかった。
思わずうふふ、と笑みが溢れる。
「?どうした?アレルヤ」
そんな僕を怪訝に思ったのか、腕の中のロックオンが振り向いて訊ねてくるのに、僕はううんと首を振って返す。
「なんかね、こんな広い世界でロックオンと出会えて、こうして一緒に流れ星を見ていられるなんて不思議だなぁ、って思ったんだ。でもそれがすごく嬉しくて、とても幸せなんだ」
そう言ってその身体をぎゅうっと抱き締めた。温かい、ロックオンの身体。そして一緒にいられるだけで、僕の心もほんわりと温かくなってくる。それも不思議。
だけどそれは、きっと僕がロックオンのことをすごくすごく好きなんだからだろうと思う。一緒にいられるだけで幸せだって思える。
「・・・そっか、そうだよなぁ。こーんな広い世界でアレルヤと会って、こうやってふたりで星を見てるなんて不思議だよなぁ」
「でしょう?」
「ああ、そんでもってすごく嬉しくて幸せだ」
頬を寄せ合ってくすくすと笑い合う。それだけでも、こんな他愛のないことでも充分に楽しくて、幸せだった。ロックオンがいてくれれば僕はどんな時だって幸せなんだ。


「そうだ、流れ星が消えるまでに3回願い事を唱えると願いが叶うって知ってるか?」
「え?・・・あ、なんかで読んだことあるかも」
「じゃあ、アレルヤだったら願い事は何にする?」
「もちろんロックオンとずっと一緒にいられますように」
「ははっ、そんなことでいいのか?」
「じゃあロックオンは?」
「俺?俺は・・・・・そうだなぁ、やっぱアレルヤと一緒にいられますように、か?」
「なぁんだ、一緒じゃないか」
「一緒だなぁ」
あははと笑うそんな彼が、すべてが、どうしようもなくいとおしくて。ぎゅうっと抱き締めた。
しんと冷えた真冬の、とても温かいある夜の出来事。





2009.12