・アレニル
・恋人前提



いつか壊れてしまいそうだと思った。

貴方は大人で優しくって、頼りになって誰でも受け入れられる心の広い人で。
そんな貴方を尊敬して、あなたのようになりたくって僕はいつもいつも貴方を追いかけていた。そして貴方への想いがいつしか『敬愛』から『愛情』に変わった頃、気付いたんだ。

貴方は誰も頼らない。他人を受け止めるだけ受け止めておいて、自らのことは曝そうとはしない。

たぶん他の人はそのことに気付いていない。ただ僕はいつも貴方を目で追いかけていたから気付いたのかもしれない。その貴方が引いた見えない壁に。

でもそれで貴方は大丈夫なの?

訊ねてもただ貴方は『何でもない』『大丈夫だ』『心配するな』そればかりで。取り付く島も与えてくれない。
だけど器に注ぐ水がいつか溢れるかのように、出口もなくただただ受け止めるだけでは貴方の心もいつか壊れてしまうんじゃないかって僕は心配になる。
誰だって弱さはある、脆さがあるのが人間だって教えてくれたのは貴方なのに。その貴方がそれを曝け出してくれない。僕にさえ。

僕では頼りない?僕は少しでも貴方の支えにならない?

どうにもならない歯痒さが胸の奥深くに渦巻いていく。

それでも貴方は時折僕の腕の中で涙を流す。それは生理的なものなのか無意識に流れ落ちるものなのかわからないけれど。
でもそれが唯一貴方が吐き出す弱さ。唯一貴方の矜持を溶かすもの。辛いと言えない貴方の言葉の代わりのものだと思う。
僕はそれを唇で受け止める。柔らかく、優しく。貴方を全て包み込むように。


そして今夜も僕の腕の中で鳴かして、啼かして、泣かす。貴方の心の中の叫びを吐き出させるために。
これが僕が唯一出来ること。そして貴方の弱さを目に出来るのも唯一僕だけ。

そんな歪んだ優越感が僕の心を満たして行く―――





2008.12