・アレニル



シャワーを浴び終え部屋へ戻ったならば、先にシャワーを浴び終えていたロックオンは既にベッドの上で寝息を立てていた。その姿に思わずくすりと笑みが零れる。
髪から伝う滴を肩に掛けているタオルで拭いながらベッドへと歩み寄り、そっと寝ている彼を起こさないようにベッドへ腰を降ろした。
髪を乾かす前に睡魔に負けてしまったのだろう。手に取った一房の髪はまだ随分と湿気を纏っていた。
元々癖のあるロックオンの髪だけど、このままでは明日の朝はもっとすごいことになっているだろう。鏡の前で昨夜の自分の行動を非難する彼の姿が容易に想像出来て、思わず頬が緩んでいく。
でも、そうなれば右に左にと自由気侭に跳ねてしまったロックオンの髪を僕が直してあげよう。この亜麻色の髪を触るのは大好きだから。
僕が髪に触れてもロックオンはすぅすぅと寝息を立てて起きる気配はない。よほど疲れさせてしまったのだろうか、と先程の行為を思い出してみる。いつも、そうなのだ。
優しくしたい、大事に大切に彼を抱きたいと思っているはずなのに、彼の白い肌が赤く染まっていく様や、蕩けた蒼碧色の瞳を見ると。高く甘く響く嬌声を耳にすると自分の中の何かが弾けてしまって我慢が出来なくなる。
それじゃ彼に負担を掛けてしまうからダメだと思っているのに。


普段の姿とは違い、あどけない顔をして眠っているロックオンの姿は僕しか見ることが出来ないのだと思うと、浅ましいけれどぼんのりと心に優越感が生まれる。
そう、こんな彼の姿は僕しか見ることが出来ないのだ。それはきっと彼が僕に心を許してくれているのだろうから。そう思うと僕は嬉しくて堪らなくなる。
けれど、まるで母親の中の胎児のように背を丸めて眠るロックオンの姿に何処か不安を感じる。
以前何かの本で読んだことがあった。身体を丸めて眠るのは淋しい証拠なのだと。
そんなことを思い出して、つきりと胸が痛んだ。
想いを交わして身体を重ね合わせて、こんなにも側に居るのにロックオンはまだ淋しいと感じているのだろうか。僕ではまだ彼を充たすことが出来ていないのだろうか。
ただの彼の癖なのかもしれない。
そう思えば僕の心は楽になるのだろうに、それでもまだロックオンの心を淋しさを埋められない自分がもどかしい。
どうすればいい?どうすれば、僕は貴方の淋しさを取り除くことが出来ますか?
口に出して問うことの出来ない言葉をそっと胸の内で呟いて、僕はロックオンを抱きしめた。
せめて僕の体温が淋しさで凍える貴方の心を少しでも温めることが出来るのならば、と。





2009.04