・アレニル前提 アレルヤとフェルト
・2期ベース
久しぶりの、宇宙。この4年という月日の中で世界は大きく変わったというのに、目の前に広がる漆黒の海はあの時から何も変わっていない。
あの頃、どちらかというと宇宙で過ごすことが多かった僕は、特にというわけでもなかったが地上よりこちらの方が好きだったように思う。けれど今は、この雄大とどこまでも広がる宇宙が大嫌いだった。
あの人を飲み込んだ場所、だから。
僕から彼を奪った黒い海は、あの時となんら変わることもなくどこか尊大に僕の目の前に広がっていた。
新しくなったトレミーの展望室で僕はひとり、果てしなく広がる闇をぼんやりと眺めている。
憎くて大嫌いな、宇宙。おまえはあの人の命を無残にも奪い取った。
流れていく景色を見ているはずなのに、窓に映った僕のふたつの目は何も映していないかのように虚ろな姿をしていた。
どれだけ目を凝らしても、どれだけ願っても、もうきっと彼の姿をこの目で見ることは出来ないと知っているからだろうか。それとも、この目の前に広がるものを映したくないと無意識に心が拒否しているからなのだろうか。
背後でしゅん、と扉の開く音がした。
「・・・・・あ、」
窓に映ったのは、少女の域を卒業しもはや女性と呼ぶのに相応しくなったフェルトだ。彼女はこの4年の間に随分と成長した。桃色の髪をひとつに結わえている所為か、更に大人の雰囲気を醸し出しているようにも思える。
「・・・フェルトも休憩?」
「・・・・・うん」
振り返ってそう問い掛ければ、フェルトは少し恥ずかしそうに頷いた。そういうところはあの頃とあまり変わってないようで、どこか心が和む気がする。
「フェルトはここが好きだね」
遠慮がちに隣に並んで同じように外を眺めている彼女に話しかければ、フェルトはほんのり頬を染めて俯きがちに頷いた。
ああそうだ。そういえば以前、落ち込んでいるフェルトとそんな彼女を慰めている彼を偶然見かけたのも展望室だった。
あの時の彼らしくない慌てようを思い出して、思わず頬が緩んいくのがわかる。でも懐かしい思い出に、もう二度と戻らないあの時に胸がつきりと痛んだのも同時だった。
ちらりと見た宇宙を眺めるフェルトの横顔はどこか悲し気に見える。きっと、フェルトも僕と同じ気持ちなんだろう。フェルトも彼のことを好きだったから。
だからこうして展望室に足を運び、彼との思い出に想いを馳せる。あの懐かしく、切なくて甘い気持ちを抱えた日々を・・・
僕とフェルトは身動ぎひとつせず、あの頃と何ひとつ変化もない景色をただぼんやりと眺めて続ける。
だけど、交わす言葉はなくても、僕たちは同じものを感じ、同じことを考えているような気がした。
未来を見つめ、戦っている僕たちにこんな感情は不要なものかもしれないけど、それでも時々・・・。
時々は貴方との思い出に浸ってもいいですか?
流れゆく星々に向かって心の中でそう呟けば、仕方ねぇなぁ、とあの優しい声が聞こえたような気がした。
2009.05