・ライニル
大きな木の下、緑の大地にごろりと寝転がる。覆い茂る新緑の葉の隙間からは、まるで絵具そのままを塗りつけたような見事な青空が覗いて見えた。
肺の奥底から吐き出すような長い息を吐けば、一緒に吐き出された白い煙が空に焦がれるように立ち上っていく。そのゆらゆらと今にも消えてしまいそうな姿の先を、俺はぼんやりと眺めていた。
「・・・・・煙い」
さわさわと風に揺られて草木の擦れる音と自分の紫煙を吐き出す音以外なかった世界に突如現れたぼやくような声。その頭上から聞こえた不機嫌な声に、ほんの少しいたずら心を抱えてもう一度、今度はあからさまに狙って煙を吹きつけてやった。
「煙い。臭い。身体に悪い」
再び降ってきた文句の言葉に思わずくすくすと笑っていれば、ぽこんと何かで頭を叩かれた。
いて、と呟いて抗議の意味も込めて視線を頭上へとやれば、そこには眉間に皺を寄せながらこちらを見ている、俺より少し碧がかった瞳。ああ、やっと本から俺を見てくれた。
「だーって、ヒマなんだもーん」
「・・・・・もーんとか言うな・・・」
「おにーちゃん、本読んでばっかで構ってくれないしー」
「・・・ライル、おまえ一体いくつだ」
呆れたようなその言葉に、俺はくすくす笑いが止まらない。ごろりと寝返りを打ってうつ伏せ、見上げた自分と同じ顔はそれでも優しい顔で微笑んでいた。
長閑な風景、穏やかな時間。何でもない、他愛のない会話。そして隣にいる愛しい片割れ。
それだけで俺は充分に幸せだと感じた。
2009.05