・アレニル
・SPED 24話冒頭部分
張り詰めた空間にぱちん、と乾いた音が響き渡った。その音に、僕はそっと顔を逸らす。
叩かれたティエリアの頬が痛々しかったのと、スメラギさんの言葉 ――戦いはまだ終わっていない―― それが胸に深く突き刺さったからだ。
そう、この戦いはまだ終わっていない。彼の喪失を嘆いている暇はないのだ・・・その事実が胸を締め付けて苦しく、そして痛かった。
僕はガンダムマイスターだ。この歪んだ世界を変える為に戦っているのだ。だから彼を失って嘆き、悲しんでいる暇はないということは良く理解っている。
けれどもひとりの人間として、心から愛した彼の喪失を惜しむ時間さえ得られないということが辛くて悲しくて堪らないのだ。
そして、純粋に感情を表せられるティエリアが羨ましい、と思った。僕もティエリアのように感情を露に出来たのならば、この胸の苦しさは少しは紛れるのだろうかと思う。
けれども人目を避けるように築き上げてきた僕たちの関係は、こんな時にも素直に表に出すことが出来ない。いや、そう身に付いてしまっているのか。
それが悔しくて、そして素直に感情を吐き出せない自分が情けなかった。
(・・・・・ロックオン・・・・・)
気を抜けば熱いものが込み上げてきそうで、奥歯を噛締めぐっと堪える。この胸に渦巻く感情をどう吐き出していいのかわからない。
そして今の僕にはそれを吐き出す時間も、その方法教えてくれた彼ももう、居なかった―――
2009.10