・アレニル



『愛してる』なんて言葉は簡単に言えるものだと思っていた。
嘘で塗り固め、装うことを覚えた俺にそんな言葉を吐くのは容易いことで、その場限りのものなら幾らだって口に出来たし、これからも簡単に言えるだろうと思っていた。
言ってしまえばそれは俺にとって処世術みたいなもので、ただの挨拶代わりにすぎない。俺の口から吐き出される『愛』なんて言葉に重さも、ましてや心なんてこれっぽっちも詰まってやいやしなかった。
だって、本当の本当に心から愛しているのは失ってしまった家族だけ。でもそれはもう伝えることの出来ない人たちなのだ。

だけど、なぜかこの目の前の青年だけにはその言葉を口にすることが出来ない。
あれほど簡単に言えたのに、顔に笑顔を貼り付けたった5つの文字を口にするだけだというのに、なぜかこの青年にだけは言うことが出来ない。伝えたいと思うのに、それに反して開いた唇は震え、言葉が喉の奥に詰まってしまう。

「あいしてるよ、ロックオン」
アレルヤは一見きつい印象を持つ顔で柔和に笑いながら、今日も俺にそう囁く。
俺もだよ、俺だって愛してるよ、そう言いたいのにやっぱり言葉は喉の奥に詰まって、それがまるで呼吸を塞いでいるかのようで胸が苦しくなる。
あれほど簡単だと思っていたのに、どうしてアレルヤに対しては伝えることが出来ないんだろう。アレルヤには、アレルヤこそには伝えたいと思うのに。

何も言えなくて、俯いてぐるぐると悩んでいれば頭の上でくすりと笑う気配。
「大丈夫。ちゃんとロックオンの気持ちは僕に伝わって来てるから」
そう言ってアレルヤは俺の額にちゅ、と可愛いキスをしてくれて。見上げれば、やっぱり優しい顔で俺を見つめていてくれた。
ああそうか、アレルヤへの気持ちは本当だから。本当に愛しているからきっと簡単には言えないんだろう。
俺の簡単に言えてしまう『愛してる』には気持ちがこもっていなくて、本当に本当に好きなアレルヤにはそんな嘘の言葉を伝えたくないんだ。だからアレルヤには言えない。

「・・・・・うん」
でもアレルヤにはちゃんと俺の気持ちが伝わっているらしい。それなら安心だけど、でももっと伝わるようにとその逞しい身体にぎゅうっと抱き付いた。肌を通して俺の気持ちすべてが届けばいい。
するとアレルヤは一瞬驚いた顔をして、そして少年のような可愛らしい顔で笑った。・・・届いたか?





2009.12