・ライニル
・ライルが下品でお馬鹿な子(笑)



「・・・・・」
憮然とした表情のライルと玄関先で向き合ってかれこれ30分。
一向に変わる兆しのないこの状況に、俺は思わず苦い笑いが込み上げてきた。なんだその顔は。
身内の欲目か、それともそれ以上の特別な感情を秘めているからなのか、きっちりとスーツを着こなすライルは格好良いと思う。すごく。
なのにそんな顔をしていたらせっかくの男前も台無しだぞ、まったく。

でも、だからといって、このままずっとここでライルとにらめっこしているわけにもいかない。それぞれがそれぞれに予定があるのだ。
ライル、と促すように名前を口にすれば、ライルはより一層顔を顰めて、まるで子供が怒られて不貞腐れるような表情をし、それこそ小さな子供が拗ねるように口を尖らせるとぼそりと呟いた。
「・・・・・やっぱやだ」
「は?」
「やだ。行きたくない。やっぱり行かない!」
「はぁ!?」
行かないと言い切るライルに俺は思わず間抜けな声を出してしまった。いきなりなにを言い出すんだまったく。ていうか、
「・・・・・行かないって、おまえなぁ・・・」
「やなもんはやだ」
「いや、でもそれじゃおまえ会社は・・・」
「あんな会社辞めてやる」
辞めてやるっておまえ・・・・・。いきなりぶっ飛んだことを言い出すライルに、はぁと思わず溜息が零れた。どうしてそうなるんだ。
「俺と兄さんを引き離そうとするあんな会社なんてなんの未練もない。いやむしろこっちから願い下げだ!」
おいおいおいおい、勘弁してくれ。たかだが1泊2日の出張ごときに引き離すも何もないだろ。なんでそうなるんだ、おまえの頭はっ!
もう一度呆れ果てた溜息を吐いて、ライル、と宥めるように名前を呼べば、なにを思ったのかライルはぐいっと身を乗り出すと俺の顔を覗き込んで、
「だって、今夜は俺のを咥え込んであんあん可愛らしく啼く兄さんの顔を見られないのかと思うと我慢出来ない。いいや我慢出来るはずがないっ!ああそうさ1日だって我慢出来るはずがないんだ俺はっ!兄さんだってそうでしょ?我慢出来ないよねっ?」
ふん、となぜか興奮気味にそう言い放ったライルに俺は一言も返すことなく、その首根っこを掴むと無言のまま玄関のドアを開いて外に放り出し、バタンッと大きな音を立ててドアを閉め、極めつけにがちゃりと鍵を掛けてやった。

あああああ朝っぱらから、それも玄関先でそんなこと言うなっ!! このばかライル!!





2009.12