・アレニル
目の前を流れていく宙の景色はあの頃と何ひとつ変わってはいなかった。
四年前、よく彼とふたりで眺めたこの光景を、今は僕ひとりで眺めている。
目の前に広がる暗い海は何も、変わっていない。その無機質さも、人を拒むかのような冷たさも。
ただこの空間で変わっているのは今僕が立っている場所――新しくなったトレミーと、その窓に映る僕自身の姿ぐらいのものか。
流れてしまった時間の長さに僅かな苦笑いを溢しつつ、ふたつの目で暗い海の中煌く星々をぼんやりと見つめていた。そこに彼の姿がないことを理解りつつも、それでもどこかにその姿が現れてくれるような気が、して。
あれから四年。
今まで僕は彼を思い出したことがなかった。思い出すことなんてなかった。
だって、僕は彼を忘れていないのだから。忘れた日なんて一日たりともないのだから。だから『思い出す』必要なんてどこにもなかった。
彼は今も僕の中で生き続け、そして常に僕の心の中に在り続ける。とても鮮やかに、綺麗なあの頃の姿のままで。
けれども、ふとした瞬間、言いようのない寂寥感がこの胸を締め付ける。この手で触れられないことが、彼の温もりを確かめられないことが堪らなく淋しいと感じてしまう。
彼はちゃんと僕の心の中にいてくれるのに、それでもそんな彼に触れられないことが、その身体を抱き締められないことが淋しくて悲しくて。込み上げる切なさに、呼吸もままならないほど苦しくなった。
そんなときは彼に逢いたくて。逢いたくて、どうしようもなく逢いたくて。でも、もうその笑顔に逢えることは出来なくて。
「・・・っ、ロックオン・・・」
記憶の中の笑顔が優しすぎて、じわりと熱いものが込み上げてくる。あの優しい笑顔は瞼を閉じれば今でも鮮明に甦ってきて、僕の心に光を与えてくれるけれど。
それでももう二度とこの目に出来ないのだと現実を受け止めれば、どうしようもなく悲しかった。
2010.01 BGM:『HANABI』