『おかえり』



ドアを開けたらありえないものが居た。
「おかえり、ハレルヤ。」
―――バタンッ!
(今この目が見たものは幻惑か何かなのか!?)
あまりにも非現実的なような気がして思わず開けたドアをもう一度閉めてみた。
閉めておいてからドア横に張られている部屋番号を示したプレートを確認してみる。207号室。間違いなく俺とアレルヤの部屋だ。あぁ確かに間違いねぇ。
(じゃあさっき見たものはなんだったんだ!?)
混乱している頭を落ち着かせるように一度深呼吸して、もう一度考える。落ち着け、落ち着いてよく考えろ俺。今俺は自分で鍵を開けたよな?つーことは鍵は掛かってたってことだ。もちろん中にはアレルヤもいないはず。だったら誰も居るはずがないよな、うん。
じゃああれはきっと俺の目の錯覚だったんだ。もしくはあいつが何か仕掛けた幻惑・・・あぁ、あいつならそれくらいのことやりかねねぇ!
そういう思考に行き着いて、俺は再び恐る恐るドアを開けた・・・ら、やっぱりそこには錯覚でも幻でも幻惑でもなんでもない、間違いなくそいつが居た。
・・・・・・・何で。

「あれ?何かのプレイ?まぁいいや。おかえり、ハレルヤ。」
人ん家だってのに何の遠慮もなく、むしろ堂々と笑って出迎えたこいつはライル・ディランディ(25)。これでもれっきとした社会人のはずだ。何がプレイだ!このアホ!
「〜〜〜〜っ、何でおまえが俺ん家に居んだよっ!」
俺は近所迷惑になるってことも構わずに叫んだ。この際構いやしねぇ!だって信じらんねぇだろありえねぇだろ、こいつが家に居るなんて。しかも今日は平日だぞ?普通で真面目な社会人だったらしかも出版社勤務ってなら働いてる時間だろ!
・・・・・・・・・・・・あ、こいつの場合普通で真面目ってのは当て嵌らないんだった。俺ってバカ。
「ほらほら、そんなトコで叫んでたらご近所さんに迷惑になるから。」
そう言いながら俺の腕を取って部屋の中に引き入れドアを閉められる。何だ、その言い方。まるで俺の方が悪いみたいじゃねぇか。ていうか、だから何でおまえがこの部屋に居るんだっつーの。
睨むようにして視線でそう訴えてやれば、ライルは呆れたようにその整った眉尻を下げて肩を竦めた。元々容姿は悪い方じゃなく、むしろ整った部類に入る方だからそんな仕草も板に付いてる。が、それがまた妙に癪に障って気にいらねぇ。
「とりあえずリビングに行こう?」
そう言われて渋々履いていたスニーカーを脱いでリビングへと足を向ける。て、何度も言うがここは俺たちの部屋だ。何でおまえがさも当たり前のように振舞ってんだよ!


肩に掛けていた鞄を放り投げ、ドサッと音を立ててソファに腰を降ろせば、ライルはローテーブルを挟んで正面に座り、ニコニコと気持ち悪いほどの笑顔でこの部屋に居た経緯を話し出した。
曰く、今日の仕事はロックオンが書いたものの編集や校正だけで、けど肝心のロックオンは未だ書き終えてなくて(また逃げてたな)。ということは、ライルの仕事はロックオンの執筆待ち。詰まるところ仕事がないということだ。
で、ロックオンの見張りも兼ねながら(よく逃げるやつだから)書き上がるのを待っていたら、アレルヤがやって来て放り出された、ということらしい。
・・・・・それって単にアレルヤに押し付けただけじゃねぇのか?
「だってアレルヤってば『僕が変わりに見てますからライルさんは会社に戻ってもらって結構ですよ』って黒いオーラ出しながら笑顔で言うんだぜ!」
・・・・・あー、アレルヤのやつ言葉には出さないけどライルのこと嫌ってるもんなぁ。認めるところはそれなりに認めてるけど。
で、放り出されたこいつは会社に戻るのも面倒臭くって、ロックオンのところにアレルヤが居るならってことでここに来たらしい。何だその理論は。
経緯はわかった。わかったけど何で部屋の中に居たんだ?まさかアレルヤが鍵を渡すわけもねぇだろうし。
「あ、マンションの管理人さんに言ったら快く開けてくれたよ。」
何て言ったんだよ。変なこと言ってねぇだろうな!あああ何だかすげぇ気になる無性に気になる!ていうか、これって不法侵入になんねぇのか?このマンションの危機管理は大丈夫なのかっ!?
「だって、ハレルヤに会いたかったら。」
そんなことを満面の笑みで言い放つライルの頭を、俺は思わず一発殴りつけていた。

んなこっぱずかしいこと、ぬけぬけと言うんじゃねぇ!
・・・・・それでも、ちょっと、嬉しかったってことは内緒にしておこう。きっと図に乗らせてしまうに違いねぇから。





2008.12