変わるもの変わらないもの。変えたくないモノ。



別に特に何かが変わるわけでもない。いつもと何ら変わらない。

目の前にはずらりと並んだ空き缶と空き瓶の列。並べ切れなかった数本が床にもごろごろと転がってる。それらは全てアルコール飲料のもの。
この数は別に今日が特別な日だからというわけでもなく、一度飲み始めれば当たり前の本数だ。
風物詩だし冬はやっぱこれだろ!と言って兄さんが買ってきた炬燵をリビングに広げて、足を突っ込みながらグラスを傾ける。見るとも為しに点けているTVは、さして面白い番組がやっているわけでもなく、適当にポチポチとチャンネルを切り替えた。
ほんと、この時期ってどこも似たような番組ばっかだよなぁ。


一年の締めくくりの日。
兄弟だけで過ごすのもなんだから、ともう一組の双子の兄弟を呼んで4人で新年を迎えるようになったのはここ2、3年のこと。・・・・・あぁ、アレルヤとハレルヤと知り合ってからか。
4人で夕飯を突いて(今日は鍋だったけど)、そのままダラダラと飲み続けて酔い潰れるように眠くなったら寝て。
別にこれが特別新年を迎える行事のようなものでもなく、普段からよくあることだ。今日に限ってすることでもない。だけどイベント好きな兄さんは、大晦日だからとか年越しだからとか言ってここ数年毎年のように2人を呼んでこの日を過ごすようになった。
年が変わるって言ったって大したことじゃないと俺は思う。今日が昨日になり、明日が今日になるだけだ。新しい年になったって何が変わるっていうんだ?日付を書くときに年の数字が1つ変わるだけじゃないか。それは月が変わるのと同じだと思うんだけどな。
そう告げると兄さんは決まって、おまえは醒めてる!って言うけれど。それで俺は何かに不自由してるわけでも困るわけでもないからいいじゃないか。
だけど・・・まぁ、兄さんが楽しみにして喜んでいるなら、別にこれはこれでいいかと思う。

そんな兄さんは俺の隣で真っ赤な顔をして、アレルヤに凭れかかりながら気持ち良さそうに寝息を立てている。その姿を見てほんの少し、眉間に皺が寄った。・・・・・ちょっと気に食わない。
そんな兄さんに寄っかられているアレルヤはアレルヤで、相当な量のアルコールを入れてるにも関わらず平気な顔してまだグラスを傾けてる。けど、鼻の下は少々延びてるぞ、おい。それにしても恐ろしいやつだよな。まだ酔わないのか。顔色一つ変わってないぞ、こいつ。
でもってアレルヤの双子の弟、俺の愛しいハレルヤはというと。
兄さんとは逆の俺の隣で、真っ赤な顔をして炬燵に突っ伏しながら器用にちびちびと飲んでは、たまたまTVに映し出されたお笑いコンビのネタに大爆笑してる。あれ?いつもこいつらに文句ばっかり言ってなかったっけ?ていうか、目が据わってるぞハレルヤ。
「・・・ほら、もうそろそろやめとけ。」
はぁ、と溜息混じりに声を掛ければ、あぁ!?とあからさまに不機嫌な返事が返ってくる。まぁ、酔っ払い特有なところって感じだな。
実際、ハレルヤはアルコールを飲みたがる割にはそんなに強くない。最初は勢いよく飲み始めるが、幾らも経たないうちに真っ赤になって目も据わってくる。で、いつもは不機嫌な顔ばかりしてるくせに妙に笑うようになって・・・気づかないうちに寝てしまうってパターンだ。
ちなみに双子の兄であるアレルヤは強い。いや強いってところの騒ぎじゃない。あれはザルだ。ザルはザルでも目の粗いザルってところだな。うん。酔ってる姿なんて見たこともない。
双子なのになぁ・・・と思ったところで、俺と兄さんも良く似たもんだから言えた義理じゃないか。兄さんはハレルヤと一緒ですぐ赤くなって寝てしまうタイプで、俺は一緒にはされたくないけどアレルヤと同じタイプ。でも俺はアレルヤほどザルではないと思ってる。一応。

「ハーレールーヤ。ほら、もうおまえ眠いんだろ?寝るんだったら部屋行って、何だったら俺も一緒に寝・・・」
「ライルさん、グラス空じゃないですかー!」
全てを言い終わらないうちに、アレルヤが俺の前のグラスにどぽぽ、と音を立てて遠慮なくアルコールを注いできた。それも結構な度数のやつを。ちっ、この小姑が!
こいつは俺とハレルヤが二人きりになろうとすることを悉く邪魔してくれる。こんな風に。まぁ俺もアレルヤに好かれてはいないだろうことを感じてるから、可愛い弟がそんなやつの毒牙に掛かるのを防いでいるんだろうけど。でもそれは俺だって同じことだ。何でおまえみたいなやつに兄さんが!とは思うけど、そこはそれ。大人の対応ってやつだ。どれだけ不満に思うやつでも兄さんが良いっていうなら俺は敢えて文句は言わない。・・・ようにしてる。
それが出来ない辺りアレルヤもまだまだ子供だよなぁ、と心の中で呟いて溜飲を下げておく。口に出そうもんなら身の危険を感じるから。
あ、言っとくけど別にアレルヤが恐いわけじゃないからな!


「あ!ほら、ロックオン!そろそろ年が変わりますよ!」
アレルヤが寝こけている兄さんを揺さぶり起こすのに気付いて時計を見れば時計の針が揃って頂点を指し示す頃合。俺もアレルヤに注がれて仕方なしに口を付けていたグラスを置いて、炬燵に突っ伏しているハレルヤの肩を叩いてやれば、んあ?と言葉にならない声を上げてハレルヤは頭を持ち上げた。あ、やっぱり寝てたな。
夢から覚めた二人がむにゃむにゃ言ってる間に、TVでは新しい年へのカウントダウンが始まりあっという間に表示されてる数字が0三つになった。
「明けましておめでとうございます。」
「・・・・・ざーます・・・」
「おめでとう。」
「・・・・おー・・・・・」
それぞれがそれぞれの言葉で新しい年の始まりを口にする。なんか、去年もこんな感じだったよなぁ。
口にするだけしてまた夢の世界へ戻っていく二人に、目が合った俺とアレルヤは思わず苦笑いが零れた。さぁて、ベッドの用意でもしてくるかね。

新しい年になったって何が変わるわけでもない。繰り返される日常。仕事に追われる日々。
それでも、また次の年もこうやって迎えられるといいなぁ・・・なんてちょっと酔いの廻った頭でぼんやりと思った。





2009.01