・ディランディ兄弟と大学生ハプティズム兄弟パラレル
・ライハレ



バイトの時間が終わって外に出れば、そこはもうすっかりと夜の街に姿を変えていた。吐き出した息が白く象り、瞬く間に夜の闇に溶け込んでいく。
木枯らしの冷えた風がひゅるるる、と吹き抜けて、その寒さに思わず捲きつけたマフラーの中に顔を竦めいれた。だぁーっ、マジで寒い。
「・・・・・う゛ー・・・」
言葉なのか呻きなのかわからないような声を上げて足早に人混みの中をすり抜ける。考査が終わったからと言ってバイトの時間を延ばしたけどこんなにクソ寒い中帰るのは考えものだ、と心の中でぶつぶつ文句を言いながら、いつもなら曲がる交差点を今日は真っ直ぐに向かって足を進める。
バイト中にアレルヤからメールがあったからだ。
『今日はニールの家で夕飯だよ。』
別に夕メシくらい自分で勝手に食えば済むことだが、コンビニに寄るのも店に入るのも、ましてや自分で用意するのも面倒臭ぇ。だから仕方ねぇから行くんだ、別にあいつに会いたいから行くワケじゃねぇ、と勝手に自分に言い訳しながら点滅した信号に歩くスピードを速めた。

マフラーに顔を埋め、両手はそれぞれダウンジャケットのポケットに突っ込んで歩く姿はかなりダセェと思う。が、寒いもんは寒いんだ。文句あるか。
(・・・・・・あー、肉まん食いてぇ。)
何個目かの交差点で赤信号を待つ間、唐突にそう思った。この冷えた中、湯気を立てた肉まんに齧り付いたらさぞかし上手いに違いねぇ。
そんなことをぼんやりと考えていたもんだから、背後に近付いた気配に気付かなかった。俺としたことが!

「ハレルヤも今帰り?」
「・・・・でた。」
往来の交差点で他人の目などこれっぽっちも気にした風もなく、これまたさり気なく肩に手を回し人の顔を覗き込んで話し掛けてきたのはライル・ディランディ(25)。某大手出版社勤務のやり手編集者で、巷では大人気作家ロックオン・ストラトスの双子弟。でもって・・・・・俺の彼氏、である。一応。
偶然だねぇ、俺たちってやっぱ運命の赤い糸で繋がってるんだ、なんて馬鹿なことほざいてんじゃねぇ!大方てめぇがどっかで張って待ち伏せでもしてたんじゃねぇのか!?
・・・・・て、こいつなら遣りかねねぇよな。恐ろしいから考えるのはやめておこう。
ニヤけた顔をして一人喋っているこいつを横目に青に変わった信号で歩き出せば、これまた当たり前のように並んで歩き出す。まぁ同じ所へ(こいつの場合家だが)向かってるんだから当たり前といえば当たり前か。
無視を決め込んで仏頂面で足早に歩く俺を気にした風もなく、同じ歩調で隣を歩くこいつは相変わらず気持ち悪いくらい笑顔。たかが街中で、帰り道が一緒になったくらいで嬉しいもんなのか?・・・・・あ、そういえば最近会ってなかったっけ。俺としてはウザいほど付き纏われなくって清々してたんだけどな。

ふとコンビニの前で足を止めれば、やっぱり同じようにライルも足を止めて怪訝そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「・・・・・肉まん奢れ。」
突然の言葉にライルはただその碧い目をぱちぱちと瞬きを繰り返してる。あ、驚いてやがる。ていうか俺自身、何でこんな突飛なことを言い出したのかわかってねぇんだけど。肉まんが食いてぇとは思ってたけど・・・なんでだ?
俺自身がわかってねぇのに思わず俯いていた顔から上目遣いに見上げれば、ライルはくすりと笑って
「ん。今夜はすき焼きだそうだから、また今度な。」
まるでガキをあやすかのようにぽんぽん、と大きな手で軽く叩かれるのが気に食わないような・・・それでもどこか嫌じゃないと思ってる自分が何だか無性に腹が立つ。
「ニールの無事脱稿祝いだそうだから、良い肉たくさん買ったって。」
だからいっぱい食えよ、とポケットの中に入れてあった手を引きずり出され、そのまま繋がれて引っ張られるように歩き出した。
やめろ、ガキじゃねぇんだ、一人で歩ける、そんないつも口にする言葉がいくつも頭の中に浮かんで喉の奥まで出てきてるっていうのに何故か出てこなくて。
「・・・・・じゃ、次は絶対奢れ。」
出てきたのはそんな言葉。何言ってんだ俺は。
俯いて自分の足元を見ながら歩いている俺を振り返る気配がした。見えてはいないけど、きっとまたこいつは気持ち悪いほど笑顔なんだろうなぁ。こんな人の多い街中で俺みたいな男と手を繋いで笑ってるなんて変なやつ。

でもそんなことを心底嫌じゃねぇと思っていたり、次も期待してるあたり・・・・・俺も相当なもんだと思った。





2008.12