愛らしきふたつの小鳥たち
ハレルヤが怪我をした―――
その報せを受けたのは、昼休憩まであと30分、というところだった。
「ロックオン、後のことは大丈夫だから行ってください!」
「悪ぃな、頼む!」
事情を察して残りの仕事は引き受けると申し出てくれたリヒテンダールに礼を言いつつ、店長には早退することを告げ、俺は取る物も取り敢えず職場である駅前の本屋を飛び出して病院へと向かった。
指定された病院は自宅であるマンションとは本屋を挟んで真逆の方向だ。思いがけない報せに焦る俺は、だから一旦車を取りに行く時間すらもどかしく、ゆえに一番原始的な方法で、しかし一番確実な手段の『走る』という方法でただひたすらに病院を目指した。
走って、走って、走って。
普段の運動不足が祟っているのか、時折足が縺れて転びそうになる。上がる息に肺は酸素を求め、訴えるかのようにずきすきと痛い。
ハレルヤが担ぎ込まれたという病院はこの辺りでは一番大きな病院で、だからなのか嫌な想像が脳裏を過ぎり、よけいに俺の不安を掻き立てていく。
(ハレルヤ・・・!)
大したことがなければいい。いや、大したことなんてあるはずがない。きっと駆け付けた俺の顔を見て、『なんだ、ろっくおん』とけろりとした表情で言うに決まっている。そうだ、そうに違いない―――
不安に折れそうになる心へそう叱咤し、俺は足と肺から訴えられる痛みを無視して、ただただ走り続けた。
「ハレルヤッ!!」
やっと辿り着いた病院。ぜぇぜぇと荒い音を立てて繰り返す呼吸を整えようともせずに分厚いガラスの扉を潜れば、広いロビーの片隅に大人しく座っているハレルヤの姿を見つけてほっと胸を撫で降ろしたと同時に思わず名前を叫んでいた。
「あ、ろっくおん」
「ろっくおーーんっ!!」
大勢の人で溢れるロビーの中、それでも俺の声と姿に気付いたのか、ハレルヤは俺の顔を見るとすぐに座っていた長椅子からとん、と降りると小走りに駆け寄ってきた。その左手にはこれでもかというほどの白い包帯でぐるぐると巻かれ、動かさないようにだろう首から掛けられたガーゼに吊り下げられている。
痛々しいほどのその姿に胸がつきりと痛み、思わず顔を顰めた。
・・・しかし、怪我をしたのはハレルヤだと聞いていたのに、なぜアレルヤまでがここにいるんだ?保育園は?いいのか?
ふと浮かんだ疑問は頭の片隅に残しつつ、けれど目の前までやってきたハレルヤに向かって『大丈夫か?』と問えば、やはり――というか、想像していた通り――けろりとした顔で『ああ』と頷いたその様子に知らず強張っていた身体から力が抜けていく。今まで胸を覆いつくさんばかりに膨らんでいた不安がすぅっと消えていくような気がして、それを排出するかのように思わず大きな溜息をひとつ、はぁ、と吐いた。
・・・それより怪我をしたはずのハレルヤはけろっとしているのに、していない方のアレルヤがどうして俺の足にしがみ付いてわんわん泣いているんだ?
そんなことを考えつつ、とりあえずはとばかりにアレルヤの頭を撫でてやっていれば、おちびたちの後を追ってきた保育園の先生たちに盛大に頭を下げられた。
こちらの不注意ですいません、申し訳ありませんと謝り続ける先生たちに理由を聞けば、どうやらハレルヤは隣のクラスのソーマちゃんとマリーちゃん――こちらも同じく双子でアレルヤとハレルヤと仲が良いらしい――が年長さんの子にいじめられているところを割って入り、代わりに突き飛ばされて運悪く骨にひびを入れてしまった、というのが事の顛末らしい。なるほど、弱い者いじめが嫌いなハレルヤらしい。
で、なぜか怪我をしていないはずのアレルヤがここにいるのは『ぼくもはれるやといっしょにいく!』と言って聞かなかったからだそうだ。・・・うん、それもアレルヤらしい。
きっと――自分もそうなのだろうが――すり傷などの軽い怪我などではなく、今までにない大きな怪我をしたハレルヤが不安になったり心細くなったりしないようにとアレルヤなりに思ったからなのだろう。
小さくてもこのふたりはお互いのことをちゃんと思っているのだ。そんなおちびたちの思いに、不覚にもじわりと熱いものが込み上げてくる。いかんなぁ、最近何だか涙脆くなってきたぞ、俺。
けれど、本当にかわいいやつらだ、と心の中で呟きながら、でもそれを伝えるように俺はもう一度アレルヤとハレルヤの頭をわしわしと撫で回してやると、それに安心したのか、うふふ、と小さなふたりが笑うのに、また俺もにこりと笑って返した。
医者の見立てではハレルヤの腕の怪我は一ヶ月ほどで治るらしいとのことだ。どうやら思っていたほど重傷ではなかったことにほっと安堵しつつ胸を撫で下ろす。
そういえばハレルヤは左利きだから利き腕が使えないというのは少々不便だろうが、だからといってどうにかなるものでもなく仕方のないことだろう。ハレルヤも――アレルヤも――男の子だからこれからもこういったことがあるかもしれない。
確かライルも子供の頃に木から落ちて骨折したことがあったなぁ、なんてことをぼんやりと思い出して、やはりこれも成長していく過程でのひとつの経験なのだと思った。
心配なことに変わりはないが、それでも命に別状がないならそれほど目くじらを立てることでもないだろう。万が一、と嫌な想像をしていただけに安心してちょっと大らかになっているのかもしれない。
だから未だ『本当に申し訳ありませんでした』と深々と頭を下げ続ける先生たちに、子供のことですからと、それよりこちらこそすいませんでしたと告げて、今日はもうふたりとも連れて帰りますからと病院を後にした。
「ろっくおん、おなかすいたー」
「はらへったー」
病院から帰る途中おちびたちが揃ってそう言うのに、そういえばハレルヤの怪我のことで頭が一杯で昼飯がまだだったことを思い出した。思い出した途端、現金なことに腹の虫がぐぅっと空腹を主張する。連絡を受けた時間からいって、おちびたちも給食を食べていないだろうから腹が減っていて当然だろう。
「んー、そうだなぁ・・・ついでだし、どっかで食ってくか?」
両脇に手を繋いで歩いているおちびたちにそう訊ねれば、ふたりは揃ってハンバーガーが食べたいとのことだった。
普段は出来れば栄養の調ったものを、とあまりファーストフードを食べさせてはいないけれど、しかしたまには・・・まぁいいだろう。こういう時でないとなかなか機会もないだろうし。
「よし、わかった。んじゃハンバーガー食って帰ろう」
そう言ってやればふたりは『わーい』と飛び上がって嬉しそうに喜ぶその理由を、俺は店に入ってから知ることとなった。
「ろっくおん、おれこれがいい!」
「ぼくもー!」
ハレルヤとアレルヤが指差した子供用のメニューに付いてくるおまけを見て、ふたりが突然ハンバーガーを食べたいと言い出したその理由を俺は納得せざるを得なかった。
期間限定らしいそのおまけは――おちびたちの大好きなキュリオスの新型の新型――ハルートだったのだ。
なるほど・・・ていうか狙ってたな!?
けれども、しかしまぁ仕方がないのでそれをふたつ注文し、自分の分も頼んで席に着いて食べ始める。利き手を怪我してしまったハレルヤは最初手が使えないことに少々戸惑っていた様子だったけれど、しかし素手で食べられるハンバーガーだからか案外問題なく食べているようだった。
ふたりともよほど腹が減っていたのかセットのポテトまで綺麗に食べてしまって、今はジュースのストローをじゅるじゅると吸っている。綺麗に食べちまって、夕飯ちゃんと食えるかぁ?
「ねぇねぇ、ろっくおん。はるーとあけていい?」
「あけていいか?」
「ダーメ。家に帰ってから」
「えぇー」
「ちぇー」
そんなやりとりをしていると、不意にポケットの中に入れていた携帯が着信を告げた。ぶるぶると震えるそれを慌てて取り出してみれば、ライルからのメールだ。そういえば保育園から連絡を受けた時、『ハレルヤが怪我をした。病院に行ってくる』とメールをしておいたんだった。
その返事だろうと受信したメールを開いてみれば、案の定『ハレルヤどうだった?大丈夫か?』との文章。それに『腕にひびが入ってたけれど、元気なもんだ。心配ない』と返せば、またすぐに返事が返って来て『わかった。よかったよ』との文章に、ああライルも心配してたんだなぁとしみじみと思う。何だかんだいっても家族なのだ。
そして続く『今日は出来るだけ早く帰る。ついでにちびたちの好きなプリンでも買って帰るから』との文章には、思わずくすりと笑みが溢れた。常日頃おちびたちに対して『ニールは甘い!』と言い続けているのはライルのくせに、そういうおまえ自身だって甘いんじゃねぇのか?と。
「アレルヤ、ハレルヤ、今日はライルがプリンを買って帰って来てくれるらしいぞ?よかったな」
思わず笑ってしまった俺を不思議そうに見ているおちびたちにそう言ってやれば、ふたりはぱぁっと顔を輝かせて『わぁ』『やったぁ』と喜んでいる。その飛び上がらんばかりの姿をライルにも見せてやりたいな、と俺はぼんやりと思った。
家に帰った後、おちびたちは揃って『公園に行きたい』と言い出したけれど、しかし『ハレルヤが怪我をしているからダメだ』と言えば案外素直に納得してくれて大人しく家の中で遊んでいてくれている。どうやらおまけのハルートが効いているようだ。そう思えば――上手く嵌められたような気がするけれど――昼飯をハンバーガーにしておいて良かった。
とりあえず数日は安静にしてなければならないらしいから大人しくしててくれよ、ハレルヤ。
そんな大人しく遊んでくれているおちびたちを横目に、洗濯したものを取り込んで畳んで掃除して、と動いていると気付けば夕飯を用意するにはいい時間になっていた。ほんと、一日ってあっという間だよなぁ。
「アレルヤ、ハレルヤ!夕飯出来たぞー。あと片付けしろー」
「「はぁーい」」
その一声におちびたちは遊んでいたおもちゃを決められた箱へと片付けると、とととっとテーブルへと駆け寄ってくる。
「ほら、ライルも!」
「おー」
メールどおり珍しく早く帰って来たライルにも声を掛ければ、返事だか何だかわからない声を上げるとのそりとソファから立ち上がってゆっくりと歩いてくる。ほんと、おちびたちと変わらねぇな、おまえ・・・。
少しくらい手伝えよ、と思いつつ、けれどライルの家事が壊滅的だったことを思い出して、うん、やっぱりおまえはそのままでいいと思いなおすことにした。
「わーい、かれーだぁ!!」
「かれー!!」
自分用の椅子に座ると、目の前に並んだ夕飯を見て諸手を挙げ喜ぶおちびたちに思わずくすりと笑みが溢れる。ふたりの嬉しそうな顔は、なぜか俺まで嬉しくなってしまうから不思議だ。
「「いただきまーす」」
嬉しそうな声を上げたおちびたちに『どうぞ』と声を掛けてやれば、アレルヤとハレルヤは嬉々としてスプーンを手に取り、さっそく口へと運び始めた。
が。
「!?」
「!!」
利き手じゃない右手で持つスプーンにどうやらハレルヤは苦戦しているらしい。一応、スプーンなら食べ易いだろうから、とカレーにしてはみたけれど、やはりそれでも幼いハレルヤには少し無理があったのかもしれない。
何とかスプーンに掬ってはみるものの、左手の時のように上手くは掬えていないからハレルヤの口に届くまでに中身はぽろりと落ちてしまう。
それが繰り返されること数回。
ハレルヤはそれでも何とか食べようとあきらめずに掬っては口に運ぼうとするけれど、その度にやはり中身はハレルヤの口に届こうとはしてくれない。
「〜〜〜〜〜っ!!」
繰り返し繰り返し、それでも上手くいかないそれに、やがてはハレルヤも苛立ちが募ってきたようで、その気持ちが表情にもありありと見て取れるようになってしまった。
―――やばい。
これではハレルヤが癇癪を起こしてしまう。のんびりとしたアレルヤと違って気の短いハレルヤだ、下手をしたら『もういらない』と言い出しかねない。どころか、ちょっとした惨劇に成る可能性だってある。それはちょっと・・・いや大いに避けたいところだ。
だから焦った俺はつい、ハレルヤに声を掛けていた。
「ハ、ハレルヤ!ほら、食べさせてやるからっ、な?」
持っているスプーンを寄こせというように手を差し出してみせれば、ハレルヤはそんな俺に対して一瞬どうしたものかと戸惑った素振りを見せたけれど、しかし、やはり好物のひとつでもあるカレーを食べたいという欲求と空腹には負けたのだろう。大人しくその右手に持つスプーンを渡してくれたことに正直ほっと安心する。思わず脳裏に描いた惨状は無事、回避されたようだ。
そして俺は手渡された小さな子供用スプーンを手にしたまま自分を椅子ごとハレルヤの隣へと移動すると、皿からカレーを掬いハレルヤの口元へと差し出した。
「ほら、ハレルヤ。あーん」
「あー」
素直に口を開けたハレルヤの小さな口に中身の乗ったスプーンを入れてやれば、ぱくりと食いつく。そして満足そうにもぐもぐと口を動かすその表情に思わず相好が崩れた。ああそういえばついこの間までこうやって食べさせてやってたなぁ、なんて懐かしい思い出が甦ってくる。
あの頃は大変だと、早く自分で食べられるようになるといいなと思っていたけど、けれど時と共に成長していくおちびたちが少しずつ俺の手を離れて行ってしまうのが、何だかほんの少しだけ淋しい気もしていたんだ。
だから今、こうやって久し振りにハレルヤに食べさせてやることが懐かしいと思うと同時に、どこか嬉しいとも思ってしまう。ずいぶんと勝手で不謹慎だけれども。
「ほい、もうひとくち。あーん」
「あー」
内心そんなことを思いながら再び差し出したスプーンに、またぱくりと食いついたハレルヤもどこか嬉しそうに見える。確かにハレルヤだってまだまだ甘えたい年頃なのだから、たまにはこうやって甘えたくもなるのだろう。
―――なるべく自分のことは自分で。
それを心情に俺はおちびたちを今まで、そしてこれからも育てていくつもりだけれど、でも今回のこれはハレルヤが利き腕を怪我してしまった所為で、だから仕方なく特別なのだ、というのは結局言い訳にしかならないということを俺自身、充分には理解っていた。
けれど、まぁ、それでもいいんじゃないかな、と思ってしまうのはやはり、俺はおちびたちにだけでなく自分にも甘いということじゃないんだろうか・・・うん、まぁ深く考えることは止めておこう。
そんなことをつらつらと考えながらハレルヤに夕飯を食べさせていると、今まで大人しく自分の分を食べていたアレルヤが突然、何を思ったのか座っていた椅子からとん、と降りると皿とスプーンを持ってとてとてとハレルヤの隣へと歩いてきた。
もう食べ終わったのか?とその皿を見てみれば、まだ半分以上残っている。どうした?もう腹いっぱいなのか?
「ろっくおん」
「ん?どうした、アレルヤ?もうごちそうさまか?」
ずいっと手に持つ皿を差し出してきたアレルヤに首を傾げて訊ねてみる。
「ぼくも。あーん」
「は?」
アレルヤが突然言い出した言葉が瞬時に理解出来なくて、思わず間の抜けた声が溢れた。い、一体どうしたんだ?
けれどそんな俺を余所に、アレルヤはもう一度『あーん』と口を開けて見せてくる。
するとそのアレルヤの様子を見て、今度はこれまた今まで黙っていたライルは口を挟んできた。
「・・・ひょっとしてアレルヤも食べさせて欲しいんじゃね?」
その言葉に俺は顔をライルに向け、そしてもう一度アレルヤの方へと視線を移せば、アレルヤは口を開いたままどこか期待に瞳をきらきらと輝かせて俺を見つめている。なるほどそうか、そういうことだったのか。
子供特有のやきもちみたいなものなのか、きっと俺に食べさせてもらっているハレルヤが羨ましくなったのだろう。そして自分も同じようにしてもらいたくなったのだ。甘えん坊のアレルヤらしいその行動に、思わずくすりと笑みが込み上げてくる。
『はやくはやく、ぼくも』と瞳で訴えてくるアレルヤのスプーンをおもむろに手に取ると、アレルヤが両手で抱える皿からカレーをひとさじ掬い上げて。
「ほい、アレルヤ。あーん」
「あーん♪」
差し出してやったスプーンに満面の笑みを浮かべてぱくりと食いつくアレルヤは、念願叶ったりというように本当に嬉しそうな顔をしていた。その表情がまたかわいらしくて、ついつい俺も顔が綻んでいく。ああ俺って、本当に親ばかだなぁ・・・もう今更だけど。
「・・・なんだか親鳥が雛にエサあげてるみてぇだな」
アレルヤとハレルヤ、交互にカレーを食べさせているとライルがぽつりとそんな言葉を呟いた。その言葉に改めてふたりの姿を見てみれば、おちびたちは俺からスプーンが届くのを今か今かと待つように口を開けて待っている。そんな姿に思わずぷっと噴き出してしまった。ああまさにライルの言葉通り、まるでふたつの小鳥がエサを求めて待っている姿にそっくりだ。
くつくつと笑っていると『『ろっくおーん、はやくぅ』』と、おちびたちから要求の声が上がるのに『はいはい』と返して、お望みどおりまたひとくちずつ口に運んでやれば、ふたりはぱくりと食いつき嬉しそうにもぐもぐと口を動かしている。
そっくりな愛らしいその姿を見るとまだまだ手が掛かって大変だけど、でももう少し、このままでいてくれてもいいかなぁ、なんて思ってしまう俺は、やはりこのふたりが可愛くって仕方がないのだろう。困ったもんだ。
が、その後。
ライルが約束どおり買ってきてくれたプリンも同じように食べさせなければならない羽目になって・・・。
ゆっくりと落ち着いて食べられない状況に、やっぱり自分たちで食べてくれるそのありがたさを俺は身に沁みて感じたのだった。
ハレルヤ、その怪我、早く治そうな!その為にも明日からは牛乳いっぱい飲めよ!
◇◆余談◆◇
「ほら、アレルヤ」
「あーん」
「ほい、次ハレルヤ」
「あー」
ハレルヤが怪我をしてからというもの、日々繰り返されるそのやりとり。
自分の分を後回しにして忙しなくちびたちに食事を与えているニールの姿を、俺は皿の上に乗った鰤の照り焼きを突きながらぼんやりと眺めていた。まったく、よくやるよなぁ、ニールも。
まぁ確かにちびたちを引き取ると言い出したのはニールの方で、だからその世話もニールひとりに任せっぱなしになっていたところもあるけれど、しかし、やはりこの場合は俺も手伝ってやった方がいいんだろう。
・・・決して俺ひとり、疎外感を感じているわけじゃねぇからな!
「アレルヤ」
だから俺はちびのひとりを呼んでちょいちょいと手招きをしてやると、素直なアレルヤは『なぁに?らいる』と俺の前までやって来る。よしよし。
「ほら、今日は俺が食べさせてやるよ」
皿を持って来い、とにこりと笑って言ってやれば、けれどアレルヤは俺のその言葉にふるふると頭を振ると。
「や!ろっくおんがいいの!」
とだけ言って、すぐに元いた場所まで戻って行ってしまった。なんだそれ!?
一瞬の出来事に思わず呆然としてしまった俺へ『ライル・・・』とどこか気遣わしげなニールの声がする。・・・構わないでくれ、ニール。いや、むしろ同情なんてしないでくれ。
ああそうだよな、おまえらは俺なんかよりニールの方が好きだもんな。うん、わかっているさ。わかっているのに声を掛けた俺が悪かったよ。けどな・・・!
子供の素直さは、時によって残酷なものなのだと俺はこの時身を以て知った。くっ・・・!
2011.01