・アレニル前提のアレルヤとライル
・2期ベース
暗い宇宙の中をトレミーが航行していく。
展望室から望む星々は、あの日と変わらず瞬いている。あの人がその身を同じとした日のように・・・
今日という日にこの宙域を航行していくのは戦術予報士の心配りかそれとも偶然か。
流れていく星々を眺めながら、僕は一人展望室に佇んであの人のことを想っていた。
シュン、と軽い空気音を立てて背後にある入り口の扉が開く。
眼前の窓ガラスに映った入り口に立つ人物の顔を見て僕の予想が当たっていたことに、あぁやっぱり・・・、とぼんやりと思った。もしここを訪れるなら彼だろうと思っていたから。
以前にそれとなくあの人が星になった宙域を彼に教えておいた。そして今日という日。
気が付けば、いや少しでもあの人への想いがあれば必ずここに来るだろうと思っていた。
コツリ、と靴音を立ててロックオンは僕の隣に立つ。会話なんてものはない。ただお互い、窓の外に広がる黒い海を見つめているだけだった。それぞれの想いをそれぞれの心に秘めながら。
静かな空間。唯一耳に届くのは、トレミーが動く為の微かな機能音だけ。
その静寂の中、カチリとライターが点火する音が響く。ちらりと視線を横へ流せば、ロックオンは煙草を片手に紫煙を吐き出していた。
あの人より僅かに薄い虹彩の瞳はどこか遠い過去を見つめているのだろうか。その瞳は微かな哀愁を帯びているように僕には見えた。
ロックオンは幾度か紫煙を吐き出した後、持っていた携帯灰皿に短くなった煙草を押し付けた。
そしてもう一度流れていく星々を見つめて瞳を眇めると、踵を返し部屋を出て行こうとする。
「HappyBirthday Lockon・Stratos」
僕は振り返りもせずその後姿に、そして星になってしまった彼に向かってそう呟いた。
その言葉にロックオンは立ち止まって苦笑いを零す。そんな彼の姿を僕は窓ガラスを通して見ていた。
相変わらず交わす言葉はない。
ロックオンは再び足を動かすと、そのまま部屋を出て行った。もう振り返ることはせずに。
彼は僕の言葉をどう捉えたのだろうか。嫌味のように捉えてしまったのだろうか。けれど、僕にはあの人も彼も「ロックオン・ストラトス」なのだ。ただ僕が愛しているのはあの人なだけで。
でもひょっとしたら彼も僕と同じことを思っていたのかもしれない。僕と彼は誕生日を迎えれば年を重ねていく。けれどあの人は・・・・・もう永遠に年を重ねることはない、そんな切ない思いを。
「HappyBirthday Neil」
一人きりになった展望室で、改めてあの人の本当の名前で紡ぐ祝福の言葉。
何時しか僕はあの人の年齢に追い着いていた。あの頃は縮めたくても縮めることの出来なかった年の差も、今では追い着いてしまった。あんなにも遠かった5年という年月はこんなにも短いものだったのかと思う。
もう年を重ねていけない貴方。対して年を重ねていく自分。その差があの頃感じていた差よりもずっと大きくて、そしてとても切なく悲しい。
祝福の言葉は今の貴方にはもう意味を成さないものなのかもしれないけれど、でも僕は生きている限りずっとこの言葉を贈り続けるよ。僕の中に貴方は生き続けているのだから。
そしてずっとずっと紡ぎ続けます。
愛してます ――――― と。
2009.02