・ディランディと大学生ハプティズムパロ
・ライハレver.



『TO: Lyle 今日会えるか?』

『TO: Haleelujah 会いに行くよ。』


返って来たメールの内容に思わず呆れた。
会えるかと聞いてるのに会いに来るってどんな返事だ。こっちは訊ねてるってのにいきなり決定行動かよ。会話になってねぇ。
マジであいつは馬鹿か。あんなんでよく編集って仕事をしてると感心する。つうか、あいつを雇った会社を、だな。


ため息を吐きつつ、いつもの鞄を肩から掛けて大学の構内を出る。
鞄の中には不釣合いな綺麗にラッピングされた箱。今日はあいつの誕生日らしい。

双子の兄・アレルヤが数日前からウザイほど落ち着かなかった。理由はアレルヤの恋人であるロックオンの誕生日。
ということは。
あいつもロックオンの双子の弟で、だからもちろん誕生日も一緒なわけで。
別に誕生日なんて俺にとってはどうってことねぇ。ただ単に歳を取るだけの普通の日となんら変わりねぇじゃねぇか。
けどそれを言えばアレルヤは煩いし、なんと言っても数日前の俺の誕生日に、あいつはプレゼントだと言って俺の欲しがっていたスニーカーをくれた。
それもただのスニーカーじゃねぇ。こいつマジでスニーカーかよ!?というような値段のもの。それからおまけだとか言って、これも結構いい値段するんじゃねぇか?と思うような時計も一緒に。

普段ならくれるっつうもんなら遠慮なく貰う主義だが、あの貰ったもんの総額を思うと流石の俺でも何かを返さないと居た堪れない。
というか、借りを作られるのが嫌というか。
それにあいつに対する少なからず持つ感情のことを思えば、これくらいはしてやろうと思った。
ただし!一介の学生である俺が出来ることだけだが。


校門を出たところで、ふと嫌な予感が過ぎった。
何か聞き覚えのあるエキゾースト音が聞こえる。・・・・・ははっ、俺の幻聴か?ああ幻聴に間違いない。
けれど、とさっきのメール内容を思い出して顔を上げてみれば・・・・・。
そこには涼しい顔をして手を振っている、今にも殴り飛ばしてやりたいやつが立っていた。

「ハレルヤから会いたいなんてメール貰ったから、嬉しすぎて迎えに来ちゃった。」
まるで語尾にハートマークでも付けてそうな口調で、どうして来たと問いただす前にこいつはへらりと笑ってそう言う。
つうか、仕事はどうした、仕事はっ!
「ああ、作家さんに頑張って貰ったから早く終わったんだ。」
また俺が訊ねる前に俺の考えていた問いにさらりと答える。こいつはエスパーか!?
というか、俺の考えはそんなに顔に出ているのか?そうとなれば、少し問題だ。
しかし、その作家とやらも気の毒に。どうせこいつのことだから、凄んで無理矢理書かせられたのだろう。アホ面しながらも結構やり手らしいから。


相変わらず丁寧な運転で車を走らせて行く。
流れて行く景色を眺めながら、ラッピングされた箱を鞄の上からそっとなぞった。
さて、どう切り出したものか。
渡すだけなら簡単だというのに、なぜか躊躇ってしまう自分に苛々する。ただ『この間の礼だ』とか『誕生日らしいからやる』とか適当に吐いて渡せばいいだけなのに、これで良かったのかとか気に入るだろうかなどと考えてしまう自分がいやに女々しい。そしてそんな自分にさらにムカつく。
無意識の内にしてしまった舌打ちに気付いたライルは、一瞬怪訝な顔をしたけれどすぐにくすりと笑ってハンドルを左へと切った。

いつものこの流れだとまたどこかへ連れて行かれるのだろうと予測していたのに、ライルが車を停めたのは俺たちのマンションの駐車場だった。俺の予想からは意外すぎて思わず目を見開いてライルの顔を見れば、そんな俺の顔にライルはまたくすりと笑って返した。
「で?ハレルヤが俺に会いたかった理由ってなに?別に理由がなくても会いたいってのも大歓迎。」
相変わらず飄々と気色の悪い台詞を言ってのけるやつだ。そして同時に悔しくなった。
きっとこいつは気付いていたんだろう。俺が呼び出した理由も、そして鞄の中のものを渡すタイミングを見つけられないことも。本当に喰えないやつ。
切欠を与えて貰った、ということが少々癪に障るけどだからと言って自分で何とか出来たとも思えねぇし・・・。
悔しさと照れと半々の気持ちで、もう一度舌打ちをしながら無造作に鞄の中に手を突っ込んで探し当てた目的のものをぽいっとライルめがけて放り投げた。
「・・・・・?」
上手くキャッチしたライルは不思議そうな顔をして箱を一瞥し、そして俺の方を向いた。俺はといえばそっぽを向いたままだけど。
「やる。」
誕生日なんだろ?という言葉は喉の奥に引っ掛かって出て来なかった。けどそれくらい察しやがれ!
たったそれだけを言い放って押し黙ってしまった俺に、それでもライルは気付いたようで『サンキューな』といつもよりちょっと上擦った声で礼を言ってくれた。

開けて良いか?との問いに黙って頷けば、カサカサとラッピングを解く音。恥ずかしくて正面から見ることなんて出来ず横目で様子を伺っていたら、中身を見たライルの顔が一瞬驚く様に心のどこかが少し落ち着いた。
プレゼントの中身はネクタイ。普段仕事でスーツを身に付けているから、これなら実用的だと思った。それにどうせ買うならライルの好きなブランドにしてやろうとも思った。直接聞いたことはねぇけど、よく見てりゃあ身に付けてる頻度によってそれがわかる。どうせやるなら気に入ってるもんの方がいいだろ。貰う側もやる側も。
そしてライルはもう一度嬉しそうに笑って『ありがとう』と言った。


その後。
部屋に上がりこんだライルはずっとニヤニヤしっぱなしで気持ち悪いったらないしうぜぇ。
「〜〜〜〜っ、その気持ち悪いニヤケ顔、どうにかしやがれっ!」
「え〜〜〜、だってハレルヤから貰ったもんが嬉しくってさ〜〜。」
「ただのネクタイだろうがっ!」
「え?ハレルヤ知らねぇの?」
「はぁ!?何を。」
「ネクタイにはさ、『あなたに首ったけです』って意味があるんだぜ?だからさ、ハレルヤは俺に首ったけってことだよなー?」
「・・・・・・・は?はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!? んなワケねぇだろがっ!」
「またまた照れちゃって〜。そんなハレルヤも大好きだよ。」

・・・・・・・・・・誰かこいつを止めてくれ。マジで。






2009.03