・ディランディとちびハプティズムパロ
・ろっくおんとらいるのおたんじょうび



この歳になれば誕生日なんて特別でもなんでもなくなってくる。最早人生の通過点に過ぎない。
それが男だからなのか、はたまた自分が無頓着な方なのかはわからないけれど。でもライルも特に気にした風もないから、そんなもんなんだろう。男兄弟はあっさりしたもんなんだ。
実際改めて言うのも気恥ずかしいものがあるからか、一緒に住んでいるというのにもうここ何年もお互いに『おめでとう』と口にしたこともなかった。
だから今年もきっと何でもない、いつもと変わらない日で終わるはずだった。


いつものように朝起きて家事をこなし、おちびたちの世話をしてライルを会社へと送り出す。また自分も仕事へ行きつつおちびたちを保育園に送り込む。
そして一日仕事をして夕方になったらおちびたちを保育園へ迎えに行き夕飯の支度をする。主夫生活も慣れたもんだ。
いつもと変わらない日常で俺もライルも今日が自分たちの誕生日だということをすっかり忘れていた。

今日も早く帰れたライルを交えて4人で夕飯を食べて、後片付けをしている時だった。
これが終わったら風呂の準備をしておちびたちを入れて・・・・・とこの後の段取りを頭の中でシュミレーション。
最後の食器を洗い終え水道の水を止めて振り返ったら、キッチンの入り口でおちびたちが俺を見て立っていた。
「アレルヤ?ハレルヤ?どうした?」
もじもじそわそわとしている小さな二人に首を傾げて訊ねてみる。何か話したいことや頼みたいことがあるのは一目瞭然だが、やっぱ自主性を重んじて自分から言えるようにならないとな。
いつもならきゃっきゃと声を上げながら遊んでいるはずなのに、そういや今日は随分と静かだったな。保育園で何かあったんだろうか?
「ん?」
二人の前にしゃがんで促してみれば、アレルヤとハレルヤは一度見合わせてから手に握っていたものを差し出してきた。
「これ、ろっくおんに。」
「こっちはらいるに。」
そう言って差し出されたものを両手でひとつずつ受け取った。自分の名前を呼ばれたからか、ライルもやって来て受け取った片方を手渡す。
渡されたものは白い紙に包まれた小さな何か。動かす度に、中でかさかさと音を立てている。
「「?」」
それをそっと開けてみれば、中には薄い桃色や緑色をしたひなあられが数粒。なんだろうこれは。アレルヤとハレルヤはなんだって一体こんなものを俺たちに寄越してきたのか。きっとライルも同じことを考えているのだろう、不思議そうな顔をしている。
そして、訳がわからなくて首を傾げた時だった。

「「おたんじょうびおめでとう。ろっくおん。らいる。」」

アレルヤとハレルヤに声を揃えてそう言われて気付いた。今日が俺たちの誕生日だったということを。ライルもまた同じだったようで驚いた表情をしている。そうだ、そうだった。
「それ、ぼくたちからのおたんじょうびぷれぜんと。」
「ちょこっとしかないけど、がまんしてくれ。」
渡された数粒のひなあられは、きっと今日保育園で出されたおやつなのだろう。全て食べたかったのだろうに、わざわざ俺たちの為に残して持って帰って来てくれたのか。思わず熱いものが込み上げて来る。
なのに、ハレルヤから受け取った方の包みを手にしたライルが、俺の手元を覗き込んで「・・・・・俺のほうが数が少ない・・・・・」とか何とか文句を言ってくる。ったく、そんなことで文句を言うな。いい場面が台無しだろうが。


何年も『おめでとう』と言われることはなかったけどそれは別に何でもないと、特に言われなくても気にしたことはなかった。
でもアレルヤとハレルヤに言われれば少し気恥ずかしいけど、でもやっぱり嬉しいのは隠し様のない事実。
あぁ、この小さい二人は俺たちが忘れていたものを暖かい気持ちと共に思い出させてくれる。
「ありがとうな。」
「サンキュー。」
そう言って俺とライルはおちびたちの頭を交互に撫でてやれば、二人は擽ったそうに笑い声を上げた。
そんなアレルヤとハレルヤがまた愛おしくて、思わず俺たちも笑い合った。





2009.03